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おすすめしたい本

山科有於良 2018.10.29

My Favorite Things

すっかり秋めいてきましたね、

今年は四季が一定期間ちゃんとあって嬉しいです。山科です。

前回おすすめのマンガを紹介しましたが

今回は最近読んでよかった本をご紹介したいと思います。

ケン・リュウ短編傑作集『紙の動物園』『もののあはれ』

アメリカの作家、ケン・リュウ氏の短編集、ジャンルはSFです。

まず表紙がやさしかわいいですね。

book

紙の虎と銀の狐です。金文字が一層よさみが深いですね。

 

SFというとハヤカワ文庫のような硬派な表紙がオーソドックスな印象がありますが

これはまるで児童文学のファンタジー作品のような優しさです。

 

優美という滅多に使う機会のない言葉がよく似合いそうなこの表紙が

中身の雰囲気をよく表しています。

「シンギュラリティー」や「アルゴリズム配列」といったいかにもSFな科学・数理概念が多用される一方で

そういう言葉で語るのは、親子の慕情や、国や民族的くくりへの執着など、ちょっとバタ臭いとも言えるような人間の情けの部分です。

作者のケン・リュウ氏が作家であると同時にプログラマー(で弁護士)であることによっているのか

人の心の動きもすべていくつかの数理的パターンに分解できるんだぞ、というような描写が随所に出てきますが

そうはいってもそこで生まれている愛情や哀しみなどが

無くなったり嘘になったりするわけじゃないから目を向けてみよう、といった哲学が

全編を通じて貫かれ、それがなんともアジア的なエモーショナルをかきたてます。文字通り「もののあはれ」です。

 

そして数理的なモチーフと文化的なモチーフの重ね合わせがとても巧みです。

DNAの二重らせん構造と、縄の編み目で数字を表すキープ文字の記録のシステムとを重ね合わせて、

少数民族の文化が現代科学に応用される話にしてみたり

囲碁の捨て石の概念と、宇宙船の乗客全体を生かすために死を選んだ乗組員を重ねてみたりと

そんなところをつなげてしまうのかという構成が新鮮な感動をかきたてます。

 

前述しましたが、作者のケン・リュウ氏は

中国人の両親を持ちながらアメリカ人で、

文筆家であり、プログラマーで弁護士です。

アジアと欧米、感性と理論の間にたって

個人で「多様性」を背負ったような方ですが

この間ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏と同じく

複数のバックボーンを持つ作家が書く話は

愛情深くて、かつ面白いことが多いような気がしています。

 

個々の事情や心情があることを当たり前に認めて

ひとつの作品にまとめあげてしまうような潮流は

文学や映像はじめ芸術の世界だけでなく、政治経済の世界にも

迫ってきているかんじがします。

そういった所謂リベラリズムに近い波は、それについていけない人を置き去りにしてしまうという

実はかなり残酷なところもあったりしますが、

芸術の世界では関係ないのでこのままのびのび流行りそうな気がしています。というか面白くて好きなので流行って欲しいです。

ケン・リュウたいへんおすすめなのでぜひお読みください。